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今さら聞けない……「わからない」との付き合い方| 品川俊介

みなさんは、インターネットで何かを調べる際、「今さら聞けない○○」というタイトルがつけられたサイトを目にしたことがありませんか?
Amazonで書籍を検索してみても、(私の専門とする経済学の本を含め)『今さら聞けない~』と題されたものが多数ヒットします。これらのことが本当に「今さら聞けない」かどうかは別として、このようなタイトルは人の目を引くために有効であると考えられているのでしょう。

たしかに、世間では常識とされているようなことを、自分が「知らない」「わからない」ということを人に悟られるということを避けたい、というのは多くの人にとって自然な感情です。それゆえに、本当はわからないけれど、改めて人に聞くこともできず「わかったふり」をしてしまうという経験は誰しもあるのではないでしょうか。

大学進学とともに上京して一人暮らしをはじめた大学一年生の頃の私は、生活のこと、東京のこと、大学のこと、なにもわからず、そんなことの連続でした。

こういった「自分の弱みを見せたくない」という思いは、ときに何かの原動力になることもあるので、すべてを否定することはできません。しかしながら、「わかったふり」というその場しのぎの手段は、少なくとも大学での学修においてはあまり良い選択とは言えません。

ここでは、みなさんが大学生活をおくる上での「わからない」との付き合い方について、私の思うところを述べてみたいと思います。

大学での学修の中心となるゼミナールでは、輪読と呼ばれる授業形態がよく採られます。これは、一冊の教科書や学術書を分割してゼミ生に割り振り、交代で発表を担当しながら理解を深めていくというゼミの形態です。

私のゼミでも輪読を行っていますが、自分の順番がくると、テキストの内容を切り貼りしてつなぎ合わせて、うまくまとめて発表するゼミ生が現れます。テキストに書いてあることをまとめているので、たしかに間違ったことは言っていません。しかしながら、内容を本当に理解しているかどうかは別問題です。

「そこに使われている用語の意味は何ですか?」
「なんでそうなるか理由を説明できますか?」

損な役回りだとは思いながらも、質問をぶつけて「わかりません」という言葉を引き出してやっと議論がスタートできます。

わかっていないことをわかっているかのように、できるだけボロを出さないように立ち回る器用さはたいしたものだと思いますが、それではわからないまま先に進んでしまいます。大学での学修は、「わからない」を放置して先に進めば、「わからない」がどんどん積み上がってしまいます。

そんな器用な真似に労力を割くくらいなら、「ここはわかりませんでした」といってくれたほうがずっといい。わからないなりに自分で考えた仮説でも提示してくれればさらにいい。

わからないからこそ、間違っているからこそ、そこでしっかり立ち止まって議論ができる。ゼミのみんなで知恵を絞って話し合いをする。ただ器用な発表を聞き流すよりずっと理解が深まる。これこそゼミの醍醐味です。

このように、わからないことに対してわかったふりをせずに「わからない」と認めることは、大学での学修を円滑にすすめるための第一歩です。

しかし、当然ながら、大学生としてそれだけでは不十分で、わからないことを自分自身で解明することもできるようにならなければいけません。特に、3、4年生になり、自らの卒業論文のための研究をすることになれば、必然的にわからないことには自ら立ち向かうことになります。

みなさんの選んだ研究テーマがよく練られたもので、みなさんの研究が深いものであれば、そこから湧いて出てくる「わからない」は教員でも簡単には答えられないものであるはずです。もちろん、教員もこれまでさまざまな「わからない」に立ち向かい乗り越えてきた歴戦の猛者ですから、考え方や調査方法、分析手法をアドバイスすることは可能です。

しかし、直接的には資料やデータを自ら集め、自ら分析し、自ら考えて解決していかなければなりません。自らの力で「わからない」に立ち向かうこの過程こそ、高校までの「勉強」とは違う、大学における「研究」の重要な構成要素の一つです。

大学卒業後、仕事に就き、独り立ちしていく中で、みなさんはさまざまな(そしてときに深刻な)「わからない」に直面することでしょう。そんなときになって「わからない」への立ち向かい方が「わからない」ようでは困ります。かといって「わからない」を避け続けていると、チャンスを逃してしまうことになるでしょう。

「わからない」を過度に恐れないこと、「わからない」をわかったふりしてそのままにしないこと、「わからない」への自分なりの立ち向かい方、そして「わからない」を一つ一つ解決していく楽しみ。そういった「わからない」との付き合い方を大学での学修・研究を通して、みなさんには身につけていってほしいと思います。

さて、大学に入学したばかりのみなさんにとっては、そんな先の話はまだ実感がわかないかもしれません。そして、みなさんの直面している「わからない」は学問の内容ではなく、履修登録や卒業要件、Web St@tionやdotCampus、図書館や施設の利用方法といったことかもしれません。

大学に入学したてのみなさんにとって、すべてが「わからない」のは当然です。配られた資料を読んでもわからないことがあれば、わかったふりをせずに人に質問するなどしてさっさと解消しておきましょう。

わからないまま3、4年生になってしまうと、まさに「今さら聞けない」になってしまいます。ぜひ今のうちに。

品川 俊介
経済学部准教授・マクロ経済学

『学問への誘い』は神奈川大学に入学された新入生に向けて、大学と学問の魅力を伝えるために毎年発行しています。

この連載では最新の『学問への誘い 2020』からご紹介していきます。


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