「スコットランド」という国を知るための手がかり―「スコッチ」という大麦のお酒―
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「スコットランド」という国を知るための手がかり―「スコッチ」という大麦のお酒―


遠くて身近なスコットランド
 「スコットランド(Scotland)」という国について、どこかで耳にしたことはあるかもしれないが、それがどのような国で、どんな文化的アイデンティティをもっているのかについては、ぼんやりとしているような人もいるのではないだろうか。それ自体は仕方のないことではあるが、しかし日常をよく見てみると、スコットランドに関わる事柄は意外と多く身近に存在する。

 「ゴルフ」の発祥は「イギリス(UK)」とされているが、実はそのUK(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)の一部であるスコットランドが発祥地という説が根強い(最初は羊飼いたちの遊びであったが、あまりに人々に流行ったために禁止令が出されたほど)。お菓子のスコーンもスコットランド発祥であるし、タータンチェックといわれる格子柄は、氏族の伝統衣装のキルト(スカートのように足を隠す男子用の衣服)に使用されていた(ただし、近代以降のロマン主義運動の産物という説もある)。サッカーニュースでときどき日本のTVでも紹介される「セルティックCeltic」というチーム名は、スコッチランドの先住民であるケルト人(Celt)に由来するものである(拠点はスコットランドの大都市グラスゴー)。


イギリス人である前にスコットランド人?

カレドニアン運河

 彼らのなかには、「ブリティッシュ(イギリス人)」と呼ばれるよりも「スコティッシュ(スコットランド人)」と呼ばれることを好む人たちもいるが、そのように、「イギリス(UK)」という国のなかに、別のナショナルアイデンティティがあることを理解すれば、ラグビーやサッカーなどの国際大会の或る種の組み合わせも理解できるようになるだろう。たとえば、同じイギリス国内であるイングランドのサッカーチームとスコットランドチームとが対戦するとき、スコットランド人は(同じUK内部のチームであるにも関わらず)別の国と対戦しているかのように熱狂して、スコットランドチームを応援したりもする(実際、FIFA以前の初の国際マッチはスコットランドvs.イングランドで行われた)。

古代ケルト人の住居


 スコットランド人が誇りとするものはいくつかあるが、その一つに「スコッチウイスキー」、いわゆる「スコッチ」というものがある。ウイスキーといえば大麦(からつくられるモルト)を主原料としたアルコール度数の強いお酒であるが、このお酒の語源はケルト人たちが話すゲール語の「ウシュケバー」であり、それがイングランドとの対立、そしてグレートブリテンとして合併してゆく歴史のなかで「ウイスキー」というように変化していった。そこには、ケルト文化が息づくその土地で暮らす人々の苦労と工夫があったわけで、スコットランドの歴史、そしてスコットランド人の精神性を理解する一つの視座を、この「スコッチ」というものは提供してくれる。

ラフロイグ蒸留所


大麦とオーツ麦の文化

 お酒といえば、あまりそれを好まない人もいるかもしれないし、お酒を飲むことをエライとする旧態依然の価値観には筆者も反対するところではあるが、しかし、なぜそのお酒がつくられるようになったかという地理的・歴史的事情、そして、それを作り続ける人たちの創意工夫や努力を知ることは、これまでに見えていなかった物事に気付くきっかけを与えてくれるだろう。

ダルモア蒸留所の樽貯蔵庫


 お酒というのは、通常はそこで食べられているものから作られる。米を食べるところでは日本酒や米焼酎、シラス台地で米がとれにくいのでサツマイモがつくられるところでは芋焼酎、といったように、地酒というものはその風土によってきまってくる。南ヨーロッパなどの温かい国ではぶどうがとれるのでワインが盛んにつくられるが、北にあるスコットランドではそうはいかない(札幌の北緯が約43度であるのに対し、スコットランド南部にある首都エディンバラは北緯55度)。冷涼なスコットランドではその風土ゆえ、「大麦とオーツ麦」の食文化が形成されてきた。ときに、イングランドから「粗野」「野蛮」とも揶揄されがちであった彼らの食生活であったが、その歴史のなかで育まれ、工夫されてきた結果として、「スコッチウイスキー」というブランドが確立したのである。この意義を理解することは、スコットランドのみならず、物事の捉え方というものを今以上に広げてくれることだろう。イギリスにおいても、そして日本においても、「国」という観点だけではみえにくかった文化的・民族的アイデンティティというものがあることに気付くきっかけとして、あるいは、その一つのアプローチとしての「スコッチウイスキー」というものの研究の面白みを知ってもらいたい。

ジュラ蒸留所のポットスティル


 筆者による最新のスコッチウイスキー研究として、つい最近刊行された『スコッチウイスキーの薫香をたどって――琥珀色の向こう側にあるスコットランド――』(晃洋書房、2021)がある。関心がある方々に手に取ってもらえれば嬉しい限りである。

著書(表表紙)

本(裏表紙)


※内容を簡単にまとめた動画をYouTubeにアップしてありますので、よろしければご視聴ください。↓

中村 隆文
国際日本学部 教授・現代英米哲学思想 スコットランド啓蒙思想



ありがとうございます。
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