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保留という選択|岩崎貴也

岩崎貴也
理学部助教・植物進化多様性科学

私が最初に進路選択を迫られたのは高校1年生の終わりでした。私は普通科でしたので、2年生から理系か文系かを選択する必要がありました。研究者は自分の専門分野を迷い無く選択してきたと思われがちですが、「理科」と「歴史」と「地理」が好きだった私は、理系・文系の時点でかなり迷いました。

最終的には、理系から文系なら後で変更できるよという高校の先生の言葉もあり、じゃあ理系で、と選択したことを覚えています。深く勉強してみないと分からないので、とりあえずはどっちにも進めるようにという選択肢を絞らないための保留の選択でした。

高1で理系に進学した結果、理科(物理と化学を選択)や地理をしっかり学ぶことができ、楽しい日々を過ごすことができました。大学進学時には、「理科」を学問としてもっと学びたいという思いから、理学部に進学しようと考えました。ただし、そこで困った第2の選択が、「理科」の何の学問にするかです。

当時の私は物理学に最も興味がありましたが、化学も捨てがたく、まだ完全には決めたくないなという思いがありました。そこで、いろいろ調べて選んだのが、理学部理学科です。一学部一学科であったため、様々な分野から完全に自由に授業・実習を選択できる、神奈川大学における総合理学プログラムのような形になっていました。

1-2回生(=年生)では完全に自由に学び、3年生から系選択といって生物系、化学系、物理系、地学系、数学系などから専門を選ぶというシステムです。私のように理科の中で何を深く学ぶかを決め切れず、まだ保留したかった人間には、ここしかないという選択肢でした。

分野を決めずに入ったので当然と言えば当然ですが、入学後は二転三転しました。最初は当初考えていた通り、物理学を勉強しようとしましたが、大学の物理学は雰囲気が大きく異なり、これは自分には向いていないなと思いました。それではと、化学に切り替えて勉強してみました。ところが、こちらもやはり自分の思っていたのと何か違う。それで、

今度は地学系を勉強してみようと授業をいくつか選択したところ、かなり面白く感じ、地学系、特に古生物に進もうかなと2回生の前期では考えていました。そんな中、地学巡検で化石掘りにいったのですが、なかなか化石を発見することができず、大苦戦でした。
ところが、化石を探している最中にふと周囲を見ると、なにやら面白そうな、いろいろな形の植物が生えています。一体何の植物だったのか今ではもう思い出せないのですが、その時に初めて、生物学、特に野生植物の多様性に関する研究が面白そうと思ったのでした。

このように選択を先延ばしにしつつ、理学の分野を少しずつ体験した上で、最終的に高校であまり学んでいなかった生物学の分野を選択したのですが、相性が良かったようで、その後は生物学の魅力にどんどんはまっていきました。

4回生の研究室選択では意外なほど迷いませんでした。最初の直感の通り、野生植物の多様性を研究したかったので、「植物系統分類学」の研究室を選びました。卒業研究の研究テーマは、温帯林の植物の地理的分布が形成された歴史的プロセスを明らかにしようというもので、私が昔から興味を持っていた「歴史」と「地理」を「生物学」に全部詰め込んだテーマでした。研究室紹介の資料とかを見て、まさに理想的だ!とビビッと感じたのをよく覚えています。

ただ、何の職業に就きたいかは学部時点では全く決まっておらず、研究は面白いので、とりあえず大学院の修士課程には進もうとだけ思っていました(周囲の友達も九割は修士課程まで進むような環境でした)。この「とりあえず大学院」というのは、理系の修士課程までなら間違い無くオススメです。

学部までの勉強や卒業研究だけでは、自分が何に興味があるのか、どういう職業に就きたいのか、しっかり決められる人はあまり多くないと思います。就職しなきゃ!と無理に選択するよりも、まずは保留し、大学院に進学することにして卒業研究に頑張って取り組むと、いろいろと新しい世界が見えてくることが多いのではないでしょうか。

私の場合、実際に卒業研究を始めてみると、とても面白く、ずっと研究を続けていきたいなと、すぐに研究者の道を考えるようになりました。現在では研究者として、野生植物の進化・多様性・生態に関する研究を進めています。自然生態系に関することであれば広く興味を持っており、動物や菌類、藻類の研究にも共同研究で取り組んでいます。

さらに最近は、地学との連携が重要になり、地学系の研究者と一緒にシンポジウムを開いたりもしています。また、ゲノムから遺伝子、タンパク質と繫がり、そこから化学の分野との関連もできつつあります。もちろん学問は全て繫がっているわけですが、これら他分野との連携が比較的スムーズにできつつあるのは、進路選択時に悩んで何度も保留してきた恩恵の一つなのかなと考えています。

学生の皆さんはこれから人生の中で様々な選択を迫られることになると思いますが、とりあえずは「保留」にして選択肢を絞ってしまわない、というのも選択肢の一つとしては有りではないでしょうか。

注意が必要なのは、「何も決めない」のではなく、「まだ決めない」という「保留」を決めていることです。保留の間にしっかり勉強をし、経験を積んでこそ、その期間が有意義なものになると思います。後で振り返った時に、あの時にあの選択肢を選んで良かったと思える選択を学生の皆さんができるよう、祈っています。

岩崎貴也
理学部助教・植物進化多様性科学

『学問への誘い』は神奈川大学に入学された新入生に向けて、大学と学問の魅力を伝えるために毎年発行しています。

この連載では最新の『学問への誘い 2020』からご紹介していきます。


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