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働き方改革から学ぶ、学生生活|大竹弘和

大竹弘和
人間科学部教授・スポーツ政策論

長時間労働による過労死や自殺、残業代の未払いなど、我々にごく身近な「仕事の問題」が大きく社会問題化されるようになってきた。電通女性社員の過労死は社会に大きな衝撃を与え、2019年4月から働き方関連法案が順次施行されている。残業時間の罰則付き上限規制や勤務間インターバル制度、同一労働同一賃金、高度プロフェッショナル制度など、政府の規制によって企業の義務(一部努力義務)が制度化され、日本人の「働き方」は大きく変わろうとしている。

しかし皆さんの多くが就職するであろう「企業」は利益を追求することを絶対の使命とし、労働は「時間」ではなく生産性を重視した「質」へとシフトしつつある。このような観点から「働き方改革」を考えると、政府による法整備や企業内のルール化などは当然として、本問題の深層は、個人の意識改革、つまり効率性と生産性ということになる。極端な例であるが、従来では1日10時間働いている者と一日6時間働いている者では前者が頑張っているように評価されてきた。だが両者の生産性(利益)が同額(例えば5万円)であれば、本来は後者の方が優れていることになる。働き方改革の本質は、働く個人に大きな改革を迫られていることを、我々は自覚しなくてはならない。

私が関与している企業の30代女性(正社員)の実例を紹介しよう。彼女は出産を機に子育てと仕事、更なるスキルアップ学習の三つを並行して行うため、会社と次のような契約改正を自ら申し出た。出社日数は週2日(10時~16時)、それ以外は自由な時間帯に自宅又は近くの図書館にて仕事をこなす。もちろん報酬は従来通り(成果により報酬アップ)。クラウドを使いオンラインでの日報作成やビデオ会議を有効に活用し、週1回の社内会議で業務の目標や進捗、成果を報告する。交通費などの経費も大幅に削減されるだけでなく、時間短縮によりおのずと生活の質も高まるなど、そのメリットは大きい。4年前にこの契約を結んでから報酬は徐々にアップしているという。他の社員と不必要な時間を強制的に共有することなく、自身で時間管理=タイムマネジメントをして生産性を上げているのである。この点が従来の日本人の働き方に欠けていた点であり、本学の学生も将来の働き方として参考にしていただきたい。

さて、高校生から大学生となって一番の変化は何であろうか。新入生から聞いた多くの回答から、高校では登下校の時間が決められて授業を皆で一緒に受けていたのに対し、大学では授業を自身で選択し時間を自由に使いこなせることだと述べており、また長期の休み(夏・冬・春休み)も魅力的で社会人へのステップとして多数の体験ができると夢や希望も語っている。大学生にはふんだんな時間が与えられ、それを自由に使っていける環境が整っており、大学生活の第一歩は、自らの「時間管理」と「学び方改革」から始めていくことが大前提といえよう。

大学で何を学んでいくかについては、私には未だ明確な答えがないため、「ゼミ指導」で強調していることをいくつか紹介させていただく。

まず、「社会の変化に敏感であれ」。メディアやインターネットの普及によって多くの情報が簡単に得られるようになった。経済や金融、ビジネス、政治、健康・国際問題など、まずは広く浅く情報収集することが重要である。この情報が、友人や先輩、親や教員などとの会話において話題として花を咲かせることになり、これこそが「社会の変化を敏感に捉える」基盤となる。

次に、「問題発見能力」を研ぎ澄ませ。日常の話題の中から社会的な課題に対して問題意識を常に持つように努め、その問題が起こる原因は何かを探し出す。原因が明確になれば問題解決は早い。これを日常的に習慣化させていく。

三つめは、「同時に複数のことを並行して行え」。ここでは複数の学問を学ぶという意味ではなく、複数のプロジェクト参加や友達との交流(異性交流は大いに歓迎)、インターンシップ、レジャー・スポーツ等々。これらを同時並行して行うことは物事に優先順位をつけることと時間を管理する能力が自然と養われる。日本人は従来から一つのことを集中して行うことを美徳とする傾向にあり、特にスポーツ(部活動)では集団活動に重きをおき時間の使い方が合理的ではなかった。

最後に附則として次のことを述べて締めくくりたい。

大学教育として「スペシャリスト養成」なのか「ゼネラリスト養成」なのか時たま議論となる。最高学府の大学としては「スペシャリスト養成」と謳いたいが、企業側からすると総合的業務ができるゼネラリストが必要との意見も多い。これは教員間においても意見が分かれるかも知れない。結論は、「ゼネラルな業務ができるスペシャリストの養成」である。

大竹弘和
人間科学部教授・スポーツ政策論

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この連載では最新の『学問への誘い 2020』からご紹介していきます。


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